提案力でさらなる高みへ──量産プロセス安定化のカギを握る金型設計への「想い」
良質な製品は良質な金型からしか生まれない
真崎が所属する生産技術センターは、デバイスソリューション事業部が各拠点で生産している電子部品の金型を製造している。開発の初期段階から加わり製造拠点と互いにアイデアを出し合う機会も多く、金型のみならず幅広い技術の蓄積が欠かせない。
金型とは、製品を安定して大量生産するために金属やプラスチックなどを成形するときに用いられる型枠のこと。当社製品の多くは、コンデンサやセンサをはじめとする精巧かつ複雑な形状をした電子部品。金型の品質が製品の良否に如実に現れてしまう。
学生時代にCADを駆使してドローンやロボットを製作し、多少設計の技術を身に付けていた。だが、金型自体は入社してから初めて学ぶことが多く、最初は実務と並行して技術習得に没頭する日々を送った。「教科書」は先輩技術者たちが苦心して開発してきた数々の金型。実際に手に取りながら、細かな加工部分までじっくり観察することで知識を吸収し、さらに社内外の研修にも積極的に参加してきた。
金型製造は新製品の試作段階から始まる。通常のように単に製品のサイズや形状などを技術部門の指示通り作るのではなく、真崎はさらにもう一歩踏み込み、モノづくりの視点から提案することを自らに課している。
また、技術部門と対話を重ねることで距離が近づき、相手の熱量が伝わってくると「何とかして期待に応えたい」と提案に熱が入るのだと言う。
金型技術者は周囲とのコミュニケーションも大事な仕事の1つ。普段から積極的に他部門と信頼関係を築いておけば、技術課題などいざというときにも協力を得やすく、いち早く解決に導くことができる。
「樹脂は生きもの」思い通りにならない挙動を制御する
自身の成長につながった案件が、入社3年目に担当した新型コンデンサの金型開発だ。最も難航したのは、わずか数ミクロンの部品の隙間に樹脂を注ぎ込むという工程。精巧な金型を作り出し、樹脂をいかに指示通りに制御できるかが製品安定化のカギだった。
当時採用を目指していた工法は今まで自部門では事例が少なかっただけに知見があまりなく、工法自体も確立できていない。まさに八方ふさがりのような状態。金型の世界では「樹脂は生きもの」と言われるほど、材料の中で極めて扱いが難しいとされている。工場内の温度、湿度など周囲の環境に左右されやすく、挙動が一定しづらいからだ。
例えば、樹脂に含まれる水分量が基準値よりもわずかでも多いと粘度が下がり流れやすくなることで、金型からあふれ出すような挙動が起きてしまう。シミュレーションである程度、挙動を予測できるとはいえ、やはり最後に頼りになるのは失敗からの経験値。トライ&エラーを愚直に積み重ね、どうしたら同じ失敗を回避できるのか──アウトプットされた製品をじっくり観察し、想定される課題を抽出し実験で1つずつつぶしていく必要があった。工法を確立するまで約1年に及ぶ、途方もない作業だ。
支えになったのは後押ししてくれる仲間の存在だった。仮説、検証、考察のサイクルを何度も回し続け、それでも分からなければ1人で抱え込まず、周囲の技術者に教えを請い素直に意見を受け入れる。
金型は「中」が見えないからこそ、面白くもあり難しい
金型開発の醍醐味は「ファーストトライ」、金型に材料を流し込んで初めて製品を作り出す瞬間に立ち会うことだと言う。
金型の出来栄えは基本アウトプットされたものでしか判断ができない。過程が見えないからこそ面白くもあり難しいと言える。製品要求通りの金型にたどりつくまで、幾度も失敗と調整を積み重ねる過程があるが、真崎は常に前向きにとらえている。
失敗を恐れず未経験や難しい領域に挑んで得られた学びは、座学などとは比べられないほどの価値がある。現在、真崎は部署内で中核的な位置におり、誰よりも率先してアイデアを出し、一番汗をかかなければならない立場でもある。
見えないところから、見違える世界に変えていく
近年、真崎の所属部署が注力しているのは、センシング技術による金型内の見える化だ。センサを装置に内蔵することで、今までアウトプットでしか推測できなかった金型内の樹脂の挙動をデータで識別できるようになり、金型製造の手戻りを大幅に減らすことが期待できる。
電子部品の多くは製品内部に組み込まれており、必ずしも表に出るものではない。そうした電子部品を作るための金型は、製品よりもさらに目立たない存在と言えるかもしれない。だが、もし金型がなければあらゆる製品がこの世に生み出されない。
見えないところから、見違える世界に変えていく──パナソニック インダストリーが掲げるステートメントに金型のイメージは合致しており、さらなる技術向上が事業貢献、ひいては暮らしやすさへの寄与につながると、真崎は語る。
世界中で社会や暮らしをしっかりと下支えしている金型の存在を、もっと多くの人に知ってほしい。そのために真崎は自らの技術を磨き、精進を積み重ね続けていく。
※ 記載内容は2024年7月時点のものです