対話で拓く一歩先のニーズ、顧客視点のモータ開発にかける「想い」
入社1年目のモータ設計が原点、「自分の考えを必ず言葉に」
森元が入社から一貫して従事してきたのは産業用モータの先行開発、お客様や業界のニーズをいち早く捉え、長期スパンで形づくる新技術開発だ。
最初に担当したのは、産業デバイス事業部の主力製品であるサーボモータの新機種開発だった。汎用モータが主に機器の動力源として連続回転で使われるのに対し、サーボモータは指定した回転数で動き、指定した位置だけ回転して停止する、つまり正確な制御性能が求められる。この特長を生かして高精度な精密加工が必要とされる半導体製造装置や電子部品実装機などに搭載され、製造過程の省人化に貢献している。
サーボモータとサーボアンプがセットとなった当社のサーボシステムは数年ごとにモデルチェンジをしており、森元が任されたのはモータの磁気回路、いわば本体部分だった。
しかし、いざ試作で評価をしてみると想定通りの特性が得られず、何度も設計の修正を繰り返すという事態となった。技術的には設定していた設計要件の不足に原因があったが、一番の問題は自分自身にあったのではと振り返る。
そうした小さな違和感に目をつぶっているうちに、それがきっかけとなり開発が誤った方向に進んでしまったと言う。
開発を正しく進めるうえで社内関係者との対話が大切だが、お客様との対話も非常に大切だと、森元は言う。
実際にお客様との対話を通して、当初導入を想定していた工程ではなく、実は別の工程の方が提案している技術の機能を活用することができると分かった事例もあった。
技術者でありながら、お客様の懐に飛び込み自ら企画提案に乗り出す。こうした行動力を磨くきっかけとなったのは、社内の新規事業コンテストでの経験だった。
お客様の所に300回行けば、本当に欲しいものがわかる
「その開発はやる価値があるのか?」。かつて研修時に上司から問われた言葉がずっと胸に引っかかっていた。企業技術者の使命とは事業化にあるのだと頭では理解していながらも、これまで企画提案の知見やお客様と接する機会が多くなく、どうしたら自分の開発テーマが事業貢献していると胸を張って言えるのか、長年課題に向き合ってきたと言う。
そんな折、事業化を目的とした新規事業の社内コンテストが実施されると聞き、すぐさまエントリー。森元が商品提案したのは、赤ちゃん世帯をターゲットにした全自動調乳機。開発中の新構造モータを搭載することで、スイッチを押すだけで粉ミルクが混ざって温かい清潔なミルクができあがり、いつでも赤ちゃんに飲ませられる。顧客価値が評価され、最優秀賞を獲得した。
「お客様の所に300回持っていけば、本当に欲しいものが分かる」──今回のコンテストに先だち行われた研修で講師から掛けられた言葉を起点に、とにかく顧客との対話を第一に考えた。
育児の中でも授乳をテーマに選んだのは、ちょうど第1子の子育て真っ最中で、ミルクの準備中に大泣きされてつらかった経験があったから。子どもを持つ職場のメンバーや、近所のママ友、親族の友人などはもとより、ときには子育て親子が集まる地域のサークルに妻と一緒に参加してヒアリングを重ねた。
さまざまな方から話を聞くと、基本的に皆さんの意見はバラバラ。しかし、その中に何かしらの共通項を持つ顧客のセグメントがあり、全員が膝を打つようなシーンがあるのです」
起案当初、「調乳の待ち時間に泣かれるのがつらい」という声を基に、ミルク育児の精神的な苦慮の解消に焦点を当てたプロダクトを考案。ところが、部分的に共感を示す方がいる一方で、ほとんどのママには刺さっていない。
対話を続けるうちに、ミルク育児の精神的なつらさの背景にあるのはいわゆる「母乳神話」で、物質的な価値での解決が難しいことが徐々に見えてきた。そんな中、基本的にミルクだけれど、深夜だけは母乳だという方に出会い、理由を尋ねると「夜泣きのたびに台所に行ってミルクを作って片づけるのが面倒だから」という回答を得た。
ただでさえ睡眠不足が常態化する育児中。毎晩2、3回、5~10分の作業が奪う睡眠時間は月10時間前後に及ぶ。この手間と時間の解消にフォーカスしてヒアリングをしたところ大多数の方から強い共感を得ることができた。こうしたプロセスを経て導いた商品価値こそが、「枕元に置いておけば、深夜でもすぐにミルクを赤ちゃんに飲ませることができる」だった。
技術者がお客様と真摯に向き合うことで、より価値の高い仕事を生み出すことができる。プロダクト開発の奥深さ、醍醐味を体感し、自身の殻を破るターニングポイントとなりました」
より確度の高い事業を生み出すために、お客様と真摯に向き合う
入社当時、現在のような技術者像を全く想像していなかったと言う森元。根っからのモノづくり好きでひたすら手を動かすことに没頭し、一つの技術分野を突き詰めるスペシャリストに専念すれば、自身のやりがい、事業貢献に結びつくものだと思っていた。
広い視野から経験を積み重なることで、より確度の高い事業を生み出せると信じています」
当社が掲げる行動指針スローガン「お客様に真摯に向き合おう」には、お客様に寄り添いながら課題解決にコミットし、共に歩んでいくパートナーになりたいという想いが込められている。森元も新規事業コンテストでの経験から、スローガンの意義を改めて実感した。
お客様のために何かを成し遂げたいという想いを原動力に積極果敢に挑戦していく。そうしたマインドが社内に広がってきており、仲間とともに一回りも二回りも成長できる土壌がある。それがインダストリーで技術を磨く魅力だと思います」
先行開発は、事業化までの道のりが長く、開発はいつも手探りだ。それでも森元は決して信念を曲げない。
探求心の高い学生のみなさんにとって、当社には挑戦しがいのあるフィールドが限りなく広がっています」
見えないところから、見違える世界に変えていく
先行開発は常日頃から未来の兆しを的確にキャッチアップして、仮説を組み立てる姿勢が重要となる。見えないところから、見違える世界に変えていく──パナソニック インダストリーのステートメントが指し示すように、自ら確立した技術を灯りに先が見えない未開の地を一歩ずつ歩み、道を切り拓いていくようなものと言える。
モーション業界でサーボモータは、グローバルを中心にまだまだ市場が成長し、売り上げ規模も拡大すると見込まれている。サーボモータの付加価値をさらに進化させる一方で、全く別のモータ技術開発の検討も視野に入れなければならない。今後も製造現場でモーション技術は必要とされるはず。だが、ソリューションが必ずしも現在のサーボモータの延長線上にあるとは限らない。
森元が現在注力しているのは特殊モータ、中でも磁気ギヤの事業化だ。トルクを高めるにはモータのサイズアップや機械式のギヤを用いて力を補う方法が主流だが、磁気ギヤードモータは磁石製のギヤを内蔵しており、小型でも高いトルクを出力できると知られている。今年開催された製品展示会IIFESに出展したところ、多くの反響があり確かな手応えを感じていると言う。
※ 記載内容は2024年7月時点のものです