今後20年、他社を寄せ付けない技術力──EVを支えるコンデンサに乗せた「想い」
需要高まるフィルムコンデンサ。お客様とともにかなえる技術革新
上嶋は入社以来、EVやHVのインバーターに搭載される、フィルムコンデンサの設計開発を担う。電気を蓄え、放出する役割のコンデンサの材質にはセラミックやアルミ電解などいくつか種類があり、フィルムコンデンサは誘電体にプラスチックフィルムを用いたもの。
その大きな特長は、高電圧に耐えられる点と、万が一壊れた際はそれ以上電流が流れなくなり、当社独自の電極蒸着パターンによるショート防止機能や、発火に至りにくく、高い安全性を有している点だ。この特性から、高電圧をかけながらも高い安全性が求められるEVやHVの内部部品として用いられている。
私は、各カーメーカーへ部品を提供する、国内トップサプライヤー向けのフィルムコンデンサを開発しています。車種や世代によって搭載するインバーターの仕様が異なるので、フィルムコンデンサも当然車種ごとに形状や仕様が異なるカスタム品となります。
世界をけん引するサプライヤーなので、その要求品質も高いですが、当社の技術力に信頼を寄せていただいており、お客様の理想をともに実現するパートナーとして難易度の高い開発に取り組んでいます」
お客様から引き合いをいただいてから最終的な量産まで、一つの製品に対して5年ほどの期間で開発を行う。
要求される仕様から、コンデンサのサイズや形状、材質などの基本設計をまとめて提案する。サンプル品を作成し、お客様と綿密な連携を取りながら設計を固めていく。社内の性能評価やお客様のフィードバックを受け、次のサンプルを作るというPDCAのサイクルを回し、設計を確定させる。設計が確定すると社内の製造部門と協議、検証を重ね、設計通りのものを量産できるところまで持っていくというのが大まかな仕事の流れだ。
設計が確立するまではお客様と、設計が確立してからは主に社内でのやり取りが多くなる。現在上嶋は入社6年目。最初に受注した引き合いが、ちょうど量産に差し掛かる段階だ。
お客様への積極的な設計提案で、Win-Winな関係を築く
現在はフィルムコンデンサの生産量が拡大しているため、ラインに新たな製品を量産する余裕がない場合もあると上嶋は言う。いかに設計段階からコストを抑えられるか、あるいは生産にかかるタクトタイムを短くできるかが、ビジネスを築くカギになる。
コスト、タクトの観点からお客様の要件を満たすことが現実的でない場合は、お客様の要求を適正なものに改めていただけないかと交渉を行う場合も。「この要件を緩和すれば、タクトを短縮でき生産効率が上がり、生産コストが下げられます」と必ずお客様にとってもメリットが大きいことをご納得いただき、両者で適正な設計を作り上げていくことが上嶋の仕事だ。
製品の設計は、標準的な設計がいくつかあり、その中から要求に合わせて最適な組み合わせで組み上げていく。一つ一つの製品が特注品のため、お客様の要求に向けて、設計者が自由な発想を取り入れられるのがフィルムコンデンサの仕事の楽しさだと上嶋は語る。例えば、コスト重視の設計か、性能重視の設計か。製造工程なども考慮に入れると製品ごとに何を重視するのかが左右されるので、お客様との協議の中で最適解を探る過程が魅力的だと言う。
裏方ではなく主役。見えないところに本質がある
上嶋にとって忘れられない経験がある。
同時に自分の設計に対する手ごたえと責任も感じた。
社会に出て働き始めるまで、社会に出回っている製品の裏側や中身にまで目を向けてこなかったと振り返る。部品の設計者として働いていると、「社会のほとんどは見えないところで構成されている」と世の中の見え方が変化した。社会から見えにくいところで世の中の多くの人が活躍している――。
技術者、特に設計者は、常に新しいことに挑戦をする職域だ。前例のないチャレンジなので壁にぶつかるが、「絶対に成功させて、良い製品を完成させると熱意を持っていれば必ず乗り越えられる」というのが上嶋の信念だ。パナソニック インダストリーは、扱う商品群、デバイスが多岐にわたり、社内を探せば必ず専門家が見つかる。困ったことがあったときに、的確なアドバイスをくれる専門家が身近にいるので、技術的に切磋琢磨して大きく成長できるチャンスだと上嶋は捉えている。
見えないところから、見違える世界に変えていく
仕事は一人で行うものではない。一人が燃えていてもうまくいかないと、上嶋は冷静に分析する。
困ったときや悩んだときには上司や先輩に相談できるので、全責任は自分にあるといったようなネガティブなプレッシャーを抱えないで済んでいるという。積極的なチャレンジを後押ししてもらえる、今の環境はとてもありがたいと話す。
競合他社はシェアを拡大しようと、当社と同じような製品を繰り出してきます。そうなると価格競争に陥って、疲弊してしまいます。今後20年、また私たちが業界のトップを走り続けられるように、一段上の技術を開発したいというのが私の目標です」
特許が切れるまでは他社が手を出せないような、確固たる地位をもう一度築くために挑戦を続けることが、社会を変える仕事につながると上嶋は信じている。見えないところから、見違える世界に変えていく――見えなくても社会を支えるのは自分たちだと上嶋は今日も仕事に臨む。
※ 記載内容は2024年7月時点のものです