2年で26拠点をバリアフリー化──誰にとっても働きがいがある職場環境への「想い」
「施設の整備」×「DEIの意識アップ」でプロジェクトを推進
──バリアフリー化の宣言、プロジェクトが始動したきっかけは?
鎌田 :
2022年に事業会社としてスタートを切った当初から掲げている「人財」を大切にする思想、ここが出発点です。当社ではバリューの中心に「人財資産」を置いています。社員がイキイキとやりがいを持って活躍するためには、安心して働けることに加え、一人ひとりの個性を発揮できる環境が欠かせません。
バリアフリーの取り組みは、ハード面で移動の円滑化と施設の利便性向上を図り、同時にソフト面で社員のDEIへの意識を高める、2つの軸で推進しています。
バリアフリーの取り組みは、ハード面で移動の円滑化と施設の利便性向上を図り、同時にソフト面で社員のDEIへの意識を高める、2つの軸で推進しています。
田井 :
プロジェクト発足以前から、個々のケースに応じて各拠点の総務部門が必要な措置をとってきました。車いすを使っている方、視覚障がいのある方など、所属社員の障がいに応じて対応していた状態でしたので、どうしても限定的になるのが課題でした。
鎌田 :
今回のプロジェクトは人事戦略統括部のDEI推進室と協業し、社員がどのような職場環境に困っているのかを徹底的に調査することから始めました。その上で、まず全社共通の「ガイドライン」を策定し、各拠点で「ギャップ調査」を行いました。私たち総務部にとっても初めての取り組みでしたので、バリアフリーの専門知識を持つ協力会社からサポートいただき、勉強を重ねていきました。
──ガイドライン策定において、重要視したことを教えてください。
田井 :
目の前にある事象だけでなく、「こうした困りごとが起こるかもしれない」という未来志向の発想でガイドラインを制定するようにしていきました。
鎌田 :
加えて、バリアフリーのターゲットを「全社員」としたのも、ガイドラインの特徴です。困りごとが発生するのは、障がいのある方に限らないからです。私たち総務部は、「当社に集う多様な社員一人ひとりの“想い”を実現するために、働く環境を整備すること」「全社員がイキイキとやりがいを持って活躍できるよう、安心・安全・快適な職場環境を提供すること」を役割として担っています。
そこで、障がいがある社員への合理的配慮にとどまらず、全社員とお客様を対象と制定しました。
そこで、障がいがある社員への合理的配慮にとどまらず、全社員とお客様を対象と制定しました。
「がんじがらめに考えなくていい」、できることから進めていく
──ガイドラインでは、どのようなことを規定したのでしょうか?
田井 :
たとえば、障がいのある方にとっては2cm程度のわずかな段差がバリアになるので、通路の段差をなくすとか、屋内の間口は80cmにするといった内容です。車いすを使う方にとって、問題のない屋内の間口は80cm以上です。
標準的な車いすは幅70cmで、手で駆動する動きを合わせた幅からこの数字が導かれています。そうした数値化した基準を細かくガイドラインに記載していきました。
標準的な車いすは幅70cmで、手で駆動する動きを合わせた幅からこの数字が導かれています。そうした数値化した基準を細かくガイドラインに記載していきました。
鎌田 :
ガイドラインの数値化で印象に残ったのは、専門家からアドバイスいただいた「がんじがらめに考えなくていい」という視点です。田井が説明した段差という話は、もちろん1つの基準ですが、それを数ミリ超える段差でも、サポートできる人がいれば許容できる、あるいは実際の利用状況や利用者意見を勘案し、整備水準を主体的に判断もできる――。すべてを改修すれば莫大な費用が必要ですし、構造的に対処しにくい場所もあります。
──ガイドラインを策定した後はどのような動きがありましたか?
田井 :
ガイドラインとのギャップをチェックする「ギャップ調査」を全拠点で実施しました。1,000を優に超えるギャップがでてきたのですが、先ほど鎌田が説明していた観点を踏まえて優先すべき項目を整理し、24年度は26拠点の280カ所を改善することにしました。
──相当な数ですが、現場の反応も教えてください。
田井 :
正直なところ、拠点の担当者を集めた最初の説明会では戸惑った反応も少なくありませんでした。多額の費用が掛かりますし、まだ発生していない困りごとへの先回り対応を、どこまですべきかという点は、やはり議論になりました。私自身も、長年にわたって拠点総務を務めていましたから、その気持ちもよくわかります。
鎌田 :
全国の拠点にガイドラインの詳細などを詳しく説明し、それぞれであらためて職場の環境を見つめなおしてもらいました。「何もかも一気に!」では、各拠点担当者は頭を抱えるばかりですが、基準を具体化していくことで、改善の必要性への気づきも生まれていったように思います。
田井 :
結果的に皆さんにご理解いただき、24年度の予算に改善計画を盛りこみ、プロジェクトを遂行していくことになりました。拠点側のメンバーと議論を重ねながら、優先順を定め、今まさに各拠点を回りながら改修を行っているところです。
国内の全製造拠点のバリアフリー化へ、2024年の現在地
──2024年度に入り、進捗状況はいかがですか?
鎌田 :
「これは良かった」と自負しているのが、社屋入口のガラスに施工した棟表示のサイン表示です。西門真拠点には低層棟が多数連なって並んでいますが、これまでは入り口に棟の番号が表示されていませんでした。最上階の壁面に書かれた棟の番号が唯一の目印で、これでは初めて来社した社員やお客様にとっては、行き先を探すのも大変です。
慣れというのは恐ろしいもので、私も入社当時は迷ったはずですが、いつしか感覚で覚えてしまっていますね(笑)。もう一度、目線を変えてバリアフリーを意識した一例です。
慣れというのは恐ろしいもので、私も入社当時は迷ったはずですが、いつしか感覚で覚えてしまっていますね(笑)。もう一度、目線を変えてバリアフリーを意識した一例です。
田井 :
改修例の中では、大阪・西門真拠点に新設したカフェもその1つ。通路を広くして、誰もが使いやすい施設にしました。業務の時間ももちろんですが、会社ででは業務する時間だけでなく、リフレッシュする時間も必要です。会社で過ごす時間をより充実したものにできるようになったと考えています。
鎌田 :
バリアフリートイレは、1拠点に最低1カ所は整備を進めています。トイレだけは周囲のサポートが行き届かない場所ですから、仮に今、拠点の社員が必要としていなくても、お越しになるお客様のために備えておくことが大切です。
加えて、その場所を社員が把握していつでもご案内できることも重要で、トイレのサインもわかりやすく掲出するようにしています。
加えて、その場所を社員が把握していつでもご案内できることも重要で、トイレのサインもわかりやすく掲出するようにしています。
──ソフト面の改善、「社員のDEIへの意識」はいかがでしょうか?
田井 :
困っている方のサポートをする意識面のノウハウの一つに、「大丈夫ですか?」と聞くのではなく、「何かお手伝いすることはありますか?」という声掛けがあるということも、専門家に教えていただきました。大丈夫かどうかの状況を確かめるよりも、お手伝いという言葉には人同士のつながり、コミュニケーションが表れます。
こうした一挙一動、気持ちの面からのバリアフリーは私にとって大きな学びでしたし、社員の皆さんにも一緒になって考えていってもらいたいポイントです。
こうした一挙一動、気持ちの面からのバリアフリーは私にとって大きな学びでしたし、社員の皆さんにも一緒になって考えていってもらいたいポイントです。
鎌田 :
多様な人々の特徴や心理状況を理解するために、総務部では全社員に対し「ユニバーサルマナー検定」の受講推奨も始めました。何か手助けしたいと思ったとき、行動に移すには意識と知識のアップデートが欠かせません。すでに200人以上が受講。職場のバリアフリーについて考えることが、多様なすべての社員の意識に働きかける、大きな意味での環境改善につながると思います。
見えないところから、見違える世界に変えていく
──国内全製造拠点のバリアフリー化、さらにその先に向けた想いを聞かせてください
田井 :
現在も拠点を回りながら、まずは宣言どおり2024年度内のバリアフリー対象施設・設備を完了させるべく、整備を続けていきます。同時に、2024年度のターゲットからは外した施設・設備の今後の方向付け、次年度以降の対策を取りまとめているところです。バリアフリーに関する知識は豊富でなかった私も、実際の課題や相談事を受けるたびに、解決策を調べては学びを繰り返している現在です。
私は全拠点の担当者と定期的に話す機会があり、拠点ごとの良い事例を集められる立場でもあります。Aの拠点で知ったノウハウが、Bの拠点から寄せられた悩みにピッタリ当てはまり、紹介をして課題解決につながる好循環も生まれています。もっと勉強し、好事例を作っていきたいですし、新たな社員を迎えるときに「イキイキ働ける、いい環境が整えられています!」と胸を張れるように気持ちを引き締めています。
私は全拠点の担当者と定期的に話す機会があり、拠点ごとの良い事例を集められる立場でもあります。Aの拠点で知ったノウハウが、Bの拠点から寄せられた悩みにピッタリ当てはまり、紹介をして課題解決につながる好循環も生まれています。もっと勉強し、好事例を作っていきたいですし、新たな社員を迎えるときに「イキイキ働ける、いい環境が整えられています!」と胸を張れるように気持ちを引き締めています。
鎌田 :
このプロジェクトは、各拠点で実践されてきたバリアフリーを、組織的に動くことで、より高めていく取り組みです。私もかつてそうだったのですが、バリアフリーという言葉からは、障がいのある方への施策をイメージされるかもしれません。
しかし、本当の意味は、ここで働くすべての社員にとっての基礎になるものです。私たちコーポレート部門も働く環境を整えることで「見えないところから、見違える世界に変えていく」その一端を、開発・製造・販売の部門とともに担いたいと思います。
ハードの面では今できること、さらに将来の課題として認識することを区分けしながら実行していきます。一方で、すぐに実行できるのは、ソフトである社員一人ひとりの気持ちです。多様性や違いを認め合い、困っている人がいればすぐに行動しあえるカルチャーをつくりたいと思います。ユニバーサルマナー検定の3級を全社員が受講しており、実践もしている、そう言える日を私は目標にしています。
しかし、本当の意味は、ここで働くすべての社員にとっての基礎になるものです。私たちコーポレート部門も働く環境を整えることで「見えないところから、見違える世界に変えていく」その一端を、開発・製造・販売の部門とともに担いたいと思います。
ハードの面では今できること、さらに将来の課題として認識することを区分けしながら実行していきます。一方で、すぐに実行できるのは、ソフトである社員一人ひとりの気持ちです。多様性や違いを認め合い、困っている人がいればすぐに行動しあえるカルチャーをつくりたいと思います。ユニバーサルマナー検定の3級を全社員が受講しており、実践もしている、そう言える日を私は目標にしています。
※ 記載内容は2024年12月時点のものです