“より良い暮らし”と “持続可能な地球環境”を両立させる──環境革新No.1拠点をめざす「想い」
GX推進体制を構築、2030年CO2排出量実質ゼロに挑む

──パナソニック インダストリーでは環境ビジョンとして「“より良い暮らし”と“持続可能な地球環境”を両立させるために、多様なデバイステクノロジーで文明の発展を牽引し、お客様とともに地球への環境負荷が限りなく小さい社会を実現します」と掲げています。皆さんはそれぞれどのような立場から、GX(Green Transformation)に関わっているのでしょうか。
山本 :
私は西門真拠点のデバイスソリューション事業部の品質環境センターに所属しています。当事業部は国内に11拠点、国外に6拠点があり、それぞれの省エネ・再エネ導入を支援するのが私の役割です。2030年にCO2排出量ゼロを達成するため、各工場が使っているエネルギーの削減施策に協力しています。拠点は全国、全世界に散らばっているので、横串を刺し、事業部横断でのGXを進めています。
志水 :
私と小野原さんは佐賀にあるデバイスソリューション事業部のPOSCAPビジネスユニットに所属しています。私は施設・環境管理課の施設管理担当として、工場内のエネルギーの管理や水質保全の管理者として法定専任業務を担い、工場立地法や建築基準法への対応や原動設備の維持管理、工事計画立案 なども担当しています。
小野原 :
私は環境管理担当としてISO14001を通じた佐賀拠点全体の環境マネジメントを行っています。各部門の環境活動の統括を担い、環境規制の順法管理、ならびに法律で規制されている項目の監視・測定、さらに定期的に行政への届け出などを行っています。
──パナソニック インダストリーがGXに力を入れるようになった背景を教えてください。
山本 :
気候変動などの環境問題が社会的に取りざたされる中、2022年1月にパナソニックグループは「Panasonic GREEN IMPACT」という長期環境ビジョンを打ち出しました。2050年に完全カーボンニュートラルを実現するという目標を掲げ、そのためには2030年までに各工場で排出CO2を実質ゼロにすることを目指しています。パナソニック インダストリーはパナソニックグループの中でも規模が大きいため、2023年度の実績ベースで見るとグループが排出するCO2全体の約30%を排出している。早急に手を打たなければという使命感がありました。
小野原 :
近年、環境負荷への意識が高まる中、お客様企業においても環境配慮の取り組みが強化されており、CSRに関連する監査や環境活動に関する調査依頼も増えています。年間のCO2排出量や水の使用量、廃棄物量などの調査項目も増えてきた印象です。とくに海外のお客様はこうした数値に敏感で、これまで求められることのなかった項目への対応が必要になるケースも出てきました。そのため、現場と連携を取りながらお客様の調査に協力する必要性も高まっていました。
山本 :
そんな中、パナソニック インダストリーは本社機能としてGX戦略を推進する部門を立ち上げます。当社のGX推進を統括し、戦略的な考えのもとで全拠点に再生エネルギー導入などの方法論や考え方を浸透させていく役割を担う組織です。これにより全社的な動きが加速、2024年度はパナソニック インダストリー全社としては国内8拠点、海外5拠点へ太陽光発電システムを導入しました。
志水 :
その先駆けとなったのが、私たちデバイスソリューション事業部の佐賀拠点だったんです。
高いエネルギー消費と災害リスクを打破したい――先陣を切った佐賀拠点

――なぜ佐賀拠点が取り組みの先駆けとなったのでしょうか。
志水 :
デバイスソリューション事業部は扱うデバイスの特性上、他の事業部に比べてエネルギー消費量が高いプロセス工程の比率が大きくなっています。その中でも佐賀拠点は事業部の中で1、2を争うほどエネルギーを使う工場を擁しています。製造時に熱を加える工程が欠かせない製品を数多く作っており、品質を管理するための空調へも相当な電力を使っているんです。以前から拠点独自で省エネ活動を推進はしてきていましたが、なかなか効果のある投資ができていませんでした。しかし、「Panasonic GREEN IMPACT」とGX戦略推進部門の設立をきっかけに、全社的に関心が一気に高まり、省エネルギー、そして再生可能エネルギー導入に前向きな雰囲気が醸成されていきました。
小野原 :
CO2削減はもちろんのこと、自然災害への備えという視点も重要でした。佐賀は豪雨災害が相次いで発生するなど、大雨による災害リスクが高い地域です。これまでピーク時の電力供給用発電機、工程内空調設備の稼働のために重油を使用していました。しかし、重油タンクからの漏えいリスクとCO2排出量削減を考え、再生可能エネルギーを積極導入して、工場内にある重油を用いた発電機の撤廃を進める必要がありました。
志水 :
佐賀拠点にとって環境負荷低減と事業継続計画の考え方は、直接的に結びついていたので、急務だったんです。
小野原 :
プロジェクトが走りだしてからは「佐賀拠点をパナソニック インダストリーで環境革新No.1拠点へ」を合言葉に、突き進むことになりました。
合言葉は「環境革新No.1拠点へ」――本社と拠点がタッグを組み乗り越えた壁

――2020年ごろはまだまだ太陽光エネルギーも高価だったかと思います。エネルギー消費量の多い佐賀拠点で本プロジェクトを推し進めるにあたって、どのような壁を乗り越えてきたのでしょうか。
山本 :
電力購入契約(Power Purchase Agreement:PPA)というスキームが登場し、風向きが変わりました。
志水 :
PPA事業会社が企業の施設や敷地の屋根などに太陽光発電設備を設置・管理し、発電された電気を導入者は購入します。導入者は設備にかかる費用やメンテナンスの手間を負担せず、PPA事業者は設備投資と電気供給の収益を得るというスキームです。
山本 :
私たち品質環境センターが提案をする前に、佐賀拠点の皆さんはいち早くPPAに目を付けて導入に向けて動いていましたよね。
志水 :
太陽光PPAのことを耳にして、まず見積もりを依頼しました。すると電力会社から買う電力よりも安く購入できることが判明しました。再生可能エネルギーは普通の電力よりも割高になると思っていたので驚きました。事業部としてもPPA契約締結は初の事例になるので、山元さんたち品質環境センターから支援をいただきながら、政府から出る補助金の申請や契約内容の精査、さらに地権者からの了承など、さまざまな課題を一つ一つクリアしていきました。
山本 :
PPA契約は20年にわたる長期的なもの。PPA事業者が倒産した場合のリスクなども考慮しながら導入を進める必要がありました。
小野原 :
この時に佐賀拠点が他に先駆けて構築した導入手法が、パナソニックグループの他事業会社でも参考にされており、グループ全体の太陽光パネルの導入検討に貢献しています。
山本 :
建屋の屋上に太陽光パネルを設置する想定でしたので、設計事務所などに耐荷重を調べてもらい、建築法に照らし合わせて確認するなど、設置にまつわる苦労も多かったですね。
――そういった壁を乗り越えて、佐賀拠点はパナソニックグループとして国内最大の規模(2025年3月時点)を誇る太陽光発電ができるようになったわけですね。
志水 :
最終的には建物の屋根に加え、駐車場のカーポート上にも太陽光パネルを設置できました。その規模は3MW。太陽光パネルは年間約3,600MWhの電力を発電し、これは一般家庭における900年分の消費電力に匹敵します。またCO2排出削減量は年間約1,750トンで、これは杉の木に換算すると12万5,000本が年間に吸収するCO2量に匹敵します。それだけ木を植えるには東京ドーム8個分の土地が必要です。
小野原 :
ピーク時の電力需要には太陽光発電と蓄電池でカバーできることになり、災害時の重油漏洩リスクを抱えていたディーゼル発電機をすべて撤去することができました。
見えないところから、見違える世界に変えていく

――今回のプロジェクトを振り返っていかがですか。
志水 :
いろいろな方の手助けを得て、無事に導入ができてほっとしています。国内拠点で最大規模の太陽光パネルの導入を実現でき、事業部だけでなくパナソニック インダストリー全社での再生可能エネルギー導入を加速する契機になったと、大きな手応えを感じています。国内外の別拠点から出張で佐賀に来られる方は、環境の部署でなくとも「太陽光を見学させてほしい」という要望がたくさんあります。大きなインパクトがすでに波及していると実感しています。
山本 :
実際に苦労されたのは志水さんや小野原さんをはじめとする佐賀の現場の皆さんで、私たちはあくまでも支援側でした。初めての取り組みで難しいこともたくさんあったと思うのですが、規模が大きい分、効果も高く、他の拠点への波及効果も大きいと改めて感じています。佐賀拠点の取り組みはモデルケースとなり、パナソニック インダストリー全社に横展開されていきました。2024年度末時点でPPAを利用した再生可能エネルギーを導入した拠点は国内で6カ所と拡大しています。
小野原 :
大規模な再生可能エネルギー導入を実現する上で、欠かせない役目を果たすことができたと感じています。佐賀拠点では省エネ推進・再エネ導入に関するロードマップを作成し、事業計画の進捗管理やデータのとりまとめを進めています。今後は空調設備の入れ替えや、さらなる太陽光発電の導入などを計画しています。
――今後のGXにかける想いを聞かせてください。
志水 :
今後も太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入を検討していき、最終的には10MW規模の設置を目標に活動を進めていきます。また、省エネ技術も日々進化しているので、すでに手を付けたと考えているところであっても常に新しい技術と照らし合わせて、さらなる省エネを進められないか目を光らせていきたいと思います。
山本 :
私たちデバイスソリューション事業部が、パナソニックインダストリーだけでなくパナソニックグループや社会全体を引っ張っていくという、先駆的な取り組みになったのではないかと思います。今後も積極的に横展開を進め、事業部全体のGXを推進していきます。
小野原 :
佐賀拠点は地方の小さな拠点ですが、目線を挙げて果敢に取り組めば国内拠点No.1規模の先駆的な取り組みを実現し、事業部全体をけん引する仕事ができると実感しています。いろいろな苦労や困難はありましたが、職場のメンバーがそれぞれの役割を果たして協力することで、職場全体の職務遂行能力も向上しましたし、一体感もより強くなりました。今後も工場全体の省エネ目標を必達できるように、各職場での活動も推進していきます。
※ 記載内容は2025年11月時点のものです