SpaceXと共に出発した、電子材料にこめた「想い」──「パナソニックを宇宙に連れて行こう」
電子材料がSpaceXと共に出発
──このプロジェクトが始動した当初について聞かせてください。
出口 :
宇宙商社のSpace BD社から「国際宇宙ステーション上の曝露実験(※1)装置を使って、何かやってみませんか」と話をもらったのが、2022年の2月中旬です。こんなチャンスはないとすぐに社内手続きに入りました。回答期限まで約2週間でしたが、スムーズに社内決裁が通ってすぐに実験が決まりました。前例のない宇宙の実験、そう簡単には……、という私の心配をいい意味で裏切るOKの連発(笑)。やはり、社内の多くの人が宇宙に興味を抱いていると実感しました。
伊藤 :
決まってからのスピード感もすごかったですよね。フライトモデル(FM)と呼ばれる実験サンプルの提出期限は4月15日。2カ月を切ったところからの始動です。実験サンプルを構成するために、郡山、四日市、中国の広州の各拠点と連携して、材料を手元に集結させました。FMのサイズ感に合わせて加工した材料が十数種類、これも想定を超えるペースで各地からそろいました。出口さんが話したとおり、各工場、技術者にとっても「宇宙に持っていきたい」という想いは共通で、全員の熱量がスピード感に表れていました。
※1 曝露実験とは、材料を宇宙空間で長時間むき出しの状態でさらすことで、どのような影響があるかを評価する実験のこと
曝露実験で得られるデータを「地上」に生かす
──パナソニック インダストリーにとって初めての実験、このプロジェクトの位置づけは?
出口 :
私たちが手掛ける材料・商品が、宇宙に行って手元に還ってくる。今までにない実験で、このサンプルリターンは新たな領域に踏み出す第一歩です。これまでも、私は電子材料の航空宇宙担当マーケティングとして宇宙産業の方々と接する中で「当社の商品が宇宙に行っている。使ってもらえている」という感触はつかんできました。ただし、宇宙空間から帰還した材料がどう変化したかについては全く情報がありません。今回の曝露実験で、宇宙の放射線や温度、真空にさらされたサンプルを手にして、実際にこの目で評価ができる、この意義は大きいですね。
伊藤 :
当社の電子材料が宇宙でどんなダメージを受けるのか、結果はどうあれ、かつてない知見です。もう一つ、意義が大きいのは実験に至るプロセスです。今回、サンプルを納めたケースは、当社と協力関係のある長崎の金属加工が得意な会社にお願いをして作成したもの。同社にとっても宇宙関連は初の取り組みでしたが「ぜひ、一緒にやりたい」と熱く応えていただきました。
振動試験(※2)も社内で実施していて、これも初の試み。宇宙関連で実績のある企業に頼るのではなく、地上で今までビジネスをしてきたサプライチェーン、インフラをベースにするスタイルを貫くことができました。
ロケットの打ち上げでは、衝撃もさることながら、非常に高い周波数の振動が発生します。ロケットの場合、自動車の2倍~4倍の周波数にあたる2,000Hzまでの高周波振動が発生するのですが、これはかなり特殊な環境で、実はそうした耐性試験ができる装置は多くありません。
しかし、「当社の設備が合致する。このサイズならば試験ができる」と確信があったのは、その1年前からプロダクト解析センターと宇宙関連の相談を始めていたから。宇宙専門の解析機関の研修も受けるなど下地ができていましたし、付加価値の大きな分析だとプロダクト解析センターも力を込めてくれました。
振動試験(※2)も社内で実施していて、これも初の試み。宇宙関連で実績のある企業に頼るのではなく、地上で今までビジネスをしてきたサプライチェーン、インフラをベースにするスタイルを貫くことができました。
ロケットの打ち上げでは、衝撃もさることながら、非常に高い周波数の振動が発生します。ロケットの場合、自動車の2倍~4倍の周波数にあたる2,000Hzまでの高周波振動が発生するのですが、これはかなり特殊な環境で、実はそうした耐性試験ができる装置は多くありません。
しかし、「当社の設備が合致する。このサイズならば試験ができる」と確信があったのは、その1年前からプロダクト解析センターと宇宙関連の相談を始めていたから。宇宙専門の解析機関の研修も受けるなど下地ができていましたし、付加価値の大きな分析だとプロダクト解析センターも力を込めてくれました。
※2 振動試験とは、製品へ振動を与えて耐久性や性能を調べる試験のこと
日本が宇宙産業をリードする時代へ
──パナソニックグループには、宇宙が大好きなメンバーが集う有志団体があるとか。
出口 :
2018年から活動している「有志団体 航空宇宙事業本部」という団体です。対象はパナソニックグループ全体、参加者は600人を超えています。宇宙ビジネスの可能性に興味を持ったメンバーが集まる大きな部活動で、オンラインミーティングを定期的に開いて意見交換しています。
伊藤 :
出口さんは「パナソニックを宇宙に連れて行こう」と呼び掛けた発起人です(笑)。私は新しい材料の開発、新規事業の立ち上げが仕事で宇宙好きなので、もちろんすぐに加わりました。この活動は今回の曝露実験でもキーになっていて、環境試験のテーマを以前から語りあい、準備もしてきたことが超短期間のプロジェクトで存分に生かされました。
出口 :
チャレンジを通じて仲間ができますし、今回も社内外に新しい仲間ができました。また、約10人のプロジェクトチームを見ても、それぞれにやりたいこと、得意とすることが違います。その幅が頼もしいですし、リーダーの私は諦めそうになる場面でも「知見を集めれば、一つになってなし遂げられる」と踏ん張れます。何が起こるかわからない宇宙に突っ込んでいくとなると、1人では何もできませんから。
伊藤 :
2022年の11月に熊本で宇宙関連の学会が開かれ、当社もブースを出して今回の実験をPRしました。来場者の中には「材料メーカーがここまでやるとは。期待しています」と声もかけていただき、そうした場で新しいつながりができます。
今後は、同じ学会で評価結果を皆さんに知っていただくような機会もつくりたいですね。基礎的な研究データは、当社に限らず広く宇宙科学、宇宙産業に役立ちます。そうした貢献で宇宙産業が広がって、われわれの商売も広がる。一緒に共存共栄できたらと思います。
今後は、同じ学会で評価結果を皆さんに知っていただくような機会もつくりたいですね。基礎的な研究データは、当社に限らず広く宇宙科学、宇宙産業に役立ちます。そうした貢献で宇宙産業が広がって、われわれの商売も広がる。一緒に共存共栄できたらと思います。
見えないところから、見違える世界に変えていく
──打ち上げの模様は、Space BD株式会社からプロジェクトに参加した各企業にライブ配信され、パナソニック インダストリーの関係者は本社のショウルームに集まって、その瞬間に立ち会いました。
出口 :
まず、こうしてチャレンジができることが楽しいし、この風土があるパナソニック インダストリーを誇らしいと思います。私たちの根本は好奇心とワクワクという「想い」です。今回は、これまでの宇宙関連の活動、われわれの好奇心、点と点がすべてつながったような印象で、全員が一気に動けたと感じています。電子材料、デバイス系の商品は地球上だけでなく、宇宙環境もしくは月の上でも使われていくような将来が近づいてくるはずです。自分の仕事にも好奇心とワクワク感を持ち込んで、航空宇宙市場担当のマーケティングとして3年後、5年後、10年後の技術を追求していきます。
伊藤 :
技術者として大切にしたいのは、いったん宇宙の題材に取り組むことが、実は地上で気づかなかった課題に出合うチャンスだということ。たとえば、コーヒーを入れるのにも、無意識に重力を使っている、といった視点です。宇宙を活用して、地上のくらしを豊かに、皆さんが幸せに快適に暮らせるようにしたい──宇宙に取り組むから、地上の技術を進歩させられるという形にうまく転換したいと考えています。サンプルが帰ってきたら大忙し。しっかりと準備をしていきます。
※ 記載内容は2023年6月時点のものです