最先端のその先に新たな市場がある──次世代デバイス向け電子材料にかける「想い」
高付加価値製品を実現する、とがった商品群
石川は、エポキシ樹脂などを主材料とする液状樹脂材料を開発する部隊のマネージャーだ。手掛ける製品それ自体は、一見すると単なる黒いドロドロした液体。だが、その用途は電子機器に搭載される半導体を保護する封止材料やスマートフォンに搭載される小型デバイスの組み立て用接着剤など多岐にわたる。最新のスマートフォンや高い安全性が求められる自動車、データを処理するサーバーや基地局、高精細な大型プリンタなど最先端の製品で使用される、機能性が高く要求品質も厳しい高付加価値の材料に特化して開発を行っているのが大きな特徴だ。
最先端の製品には、まだ世の中にない理想をかなえたいという技術者の想いが込められていると石川は話す。使用する電子材料にも、従来技術では実現不可能と思われていたような性能が求められる。
例えば、スマートフォン。性能向上に伴って高価格になり、ユーザーは高級機を長く使うスタイルに変化している。搭載されるカメラにおいても年々高性能化が進み、多くの微細な部品を接着して部品を組み立てる必要がある。お客様が要求する品質レベルは高くなり、複雑な構造下での微細な接着にもかかわらず、高い接着強度を求められるだけではない。部品をいかに早く組み立てられるか、落下や振動などの物理的な力に耐えられるか、長期的に使っても材料の劣化が少ないかなど、多岐にわたる要求を満たす特殊接着剤が求められる。
こうした相反する複数の性能を一度に実現する「とがった」材料を開発することで、お客様の持つビジョンをかなえ、お客様とともに世界を変えていくことが自分たちのミッションだと考えている。
製品開発の進め方も要求された条件を満たすだけでなく、市場のトレンドや最終的な製品の仕様やスペックをイメージして、自分たちから積極的に技術提案を行い、お客様のビジョンを実現するスタイルに変わってきたと言う。以前は市場での知名度が低かったパナソニック インダストリーの電子材料が、今では最先端のデバイスでも採用実績が増え、性能をベンチマークされるまでに成長した。パナソニック インダストリーの材料分野でのプレゼンスが大きくなっていると実感している。
イマジネーション豊かなお客様の新奇なアイデアを実現する屋台骨
お客様の新商品の量産開始時期は早くから決まっており、使用される材料の開発は時間的な制約も大きい。高性能デバイス向けの開発は技術的なハードルが高く、タイトなスケジュールの中で、まだ誰も実現したことない材料を生み出そうと四苦八苦していると言う。しかし、新たな材料といっても考えるべきは普遍的な自然現象。原理原則にのっとって課題解決の仮説検証を的確に行っていけば、複雑な自然現象をコントロールする新たな技術を生みだせると石川は言う。
世界でも最先端のアイデアを出す人はどこか仙人のようで、驚くような目線から何年も先を見据えた斬新な理想を描き出す。それを聞くと「面白い!」と技術者のスイッチが入るのが石川だ。開発から何年かのち、発売されたスマートフォンで撮られた写真がSNSにアップされ、「夜景がこんなにきれいに撮れた。この機種にしてよかった」とコメントが付いているのを見ると「ああ、あの開発はこういうことだったんだな」と答え合わせができ、また次の開発に向けてモチベーションが高まっていくのだと言う。
材料の仕様はお客様の理想から必要なスペックを逆算して固めていくが、そのビジョンを本当の意味で理解できていないと、求められている材料は作れない。書類で表されている要求スペックを満たすことはスタート地点に立ったにすぎない。どれだけお客様とともに理想を実現する提案を追加でできるかがカギになる。
求められた以上の提案が新しい世界を作る
現在チームをマネジメントする立場になった石川は、お客様が示す要求スペックと予想される製品性能から「お客様の実現しようとする夢」を読み解くことが大切だと、材料開発の担当メンバーに繰り返し伝えている。
例えば、最先端のデバイスの場合、お客様は秘密保持などの観点から「これは○○に使う○○の機能を有する部品」など詳細に教えてくれない。この要求スペックならば……、こういう用途なら……、と原理原則にのっとってかみ砕いていくと最終形が見えてくる。「この用途なら、こんな機能を付けた方が喜んでもらえると思います」と開発メンバーから提案が上がってくるのが本当にうれしいと楽しそうに話す。
お客様からの技術的な問い合わせに対しては、目線を合わせて一緒に課題解決をすることを信条にしてきた。かつて、あるお客様から「開発中の製品に、不具合がある」と相談を受けた。「材料屋」として考えを巡らせて、お客様とともに原因究明を行った。後に分かったことだが、不具合の原因は当社材ではなく、競合他社の材料だった。しかし、これがきっかけでお客様との密なやり取りが増えて、今では大切なビジネスパートナーとなっている。
「パナソニック インダストリーはお客様視点で」という第一印象、その想いはこうして今も生き続けている。
見えないところから、見違える世界に変えていく
今、取り扱っている主な商品群は、生成AI向けサーバーや自動運転の自動車、最新スマートフォンといった製品に使用される次世代デバイス向けの電子材料。変化が大きい業界だ。要求スペックが高まるだけでなく、新たな機能や要素が求められるが、その変化に対して即時に順応していきたいと石川は考えている。見えないところから、見違える世界に変えていく──そのためには自社だけでなく社外との協業も欠かせない。
社内だけでなくお客様、業界皆が協力することで、今後もメイド・イン・ジャパンでのデバイス作りを目指して石川は今日も挑戦を続けている。
※ 記載内容は2024年7月時点のものです